副業 政治家

スウェーデンの地方議員のことについて、

北極圏の街オーベルトーネオで市議会議員を務めるアニカさんに話を伺った。


地方議会の議員という仕事は、副業が普通のこと。

この市では32人の政治家がいるが、市長だけが専業で、

残り31人の議員は全員、他に本業を持っていて、政治家の仕事は副業だ。

本業は農家だったり、市の職員だったりと様々だ。


これは一長一短あるが、副業ということは落選すれば無職、というリスクがない。

日本の政治家が最も恐れるのが落選(失業)なので、

当選に結びつく活動を優先してしまったり、利権構造が作りだされやすい。

この弊害はとても無視できない。



しかし副業として政治家なんて、できるものだろうか。

視察や会議の時間など、どうやって本業とのバランスをとるのだろう。

そのあたりをアニカさんに質問してみると、

やはりサービス残業がない文化といっても、本業と副業の両立は難しく、問題になっているそうだ。

特に「本業が何か」にも左右されるようで、

自営業であればある程度時間の融通がきくが、会社員は日中に時間を取りにくい。

だから仕事上がりの夕方以降に議員としての業務を行うことになる。

すると、今度はプライベートの時間を使わないといけない。

いかに本業、副業、プライベートのバランスをとっていくかが政治家にとって悩みどころなのだ。



さて。
この自治体の議員は、会議に参加した日数や時間に応じて給料が支払われる。

サボって仕事しなかったら、その分給料がもらえない。

(そんなの当然だけど、それが日本ではできていないんだよね・・・)

また、議員の仕事によって本業を休まなければならなかった場合、その分を補てんする額が支払われる。

このあたりは、副業が普通なので、なるほど、という制度だ。



また、スウェーデンの議員報酬は、自治体によって大きく異なる。

例えばこのオーベルトーネオはとても低く設定しているが、すぐ隣の自治体では10倍近い高額報酬。

ただし、高額といっても日本より低く、議員だけでは食べていくのが難しい程度だそうだ。

だから低額報酬の自治体では、政治家がほとんどボランティア状態になっている。

議員報酬が低い理由はいろいろあるだろうが、この市の場合、財政が悪いからではない。

オーベルトーネオは、スウェーデンでも有数の優良財政な自治体だ。

それなのに報酬水準は低い。

アニカさんのつぶやきによると、年収約40万円。

財政状況と議員職の大変さを考えると「もっと上げていい」と議論をしている最中なのだと言う。



うーん、羨ましくなるほどの悩みだ。

そんなに報酬が低くなっても議員をやりたい政治家が、日本に何人いるだろうか・・・。



ところで、日本では政治家が立候補するには供託金が必要だ。

市区議会の議員であれば30万円、市区長なら100万円、知事や国会議員ともなれば300万円もする。
(当選するか、一定割合の得票を得られれば返金される)

この供託金の目的は、「本気ではない人の立候補を防ぐこと」。


僕は特に何も考えず、それに納得していたのだが、

これを聞いたアニカさんはとても驚いた様子で、

第一声は

「その制度だと、お金のある人しか立候補できないじゃない!

お金はないけど、志のある真面目な人は政治家になれないわ。

政治家は裕福な人の特権なの?」


それに政党にではなく個人に投票する選挙制度もあるので、
スポンサーがいないと選挙活動すらまともにできない。

お金のある人の特権、という指摘には一理ある。(というか、その通りか?)



スウェーデンは、地方議会であっても比例代表制だ。

有権者は政党に投票するのであって、政治家個人には投票しない。

だから供託金のような制度は不要で、各政党の中で当選する順位付けをしておけばよい。
政党が得られた得票数によって、当選者数が決まる。

立候補したい人は、入党し、党内部の民主主義を踏まえ、党員による投票で順位が決められる。

だから、供託金制度はないし、個人に投票してもらうための選挙活動もない。

とても合理的だし、機会の平等が図られているな、と感じる。



これまでの話から、政治の仕組み自体が、政治をクリーンに保つようにできているように思う。

政治家一人一人や支持者に高いモラルを求めることも大切だが、

利権を生まないようクリーンにさせるような仕組みを構築するほうが効果がある気がする。

政治家は腹黒いもの、とあきらめてしまうのではなく、

政治家が腹黒くならなくて済むような、腹黒い人が政治家になりたくなくなるような仕組みを作ればよいのだ。


地方の政治家のこと1つとっても、随分違いがある日本とスウェーデン

どちらも問題を抱えているけれど、日本が学べる点はいくつもありそうだ。