31年前に脱・原発を決めた国から見た、日本のチャンス

日本はいま、これからのエネルギー政策を模索している。


原発への依存を高めるのか、現状維持するのか。
徐々に減らしていくのか、すぐに脱却するのか。


原発には寿命があるから、新しく建てない限り、必ずいつかは脱却することになる。


これだけの事故を起こしたのだから、依存を高める、という選択肢だけは、さすがの経産省も電力会社も「難しいかもしれない」くらいは思っているだろう。


ところで、ソフトバンクの孫さんが設立した自然エネルギー財団の理事長に就任したのは、スウェーデンでエネルギー庁長官を務めていたトーマス・コバリエル氏。


彼の母国では、1980年に国民投票を行い、「2020年までに全ての原発から撤退する」と決めた。


そう、決めた。


決めたのだが、


それを実行するのは、そう簡単ではないようだ。


これは、スウェーデン原発地図。
赤点が、稼働中。青点は、停止済み。

人口は900万人のこの国に、10基もの原発が稼働している。

原発依存度は、なんと45%。

実は、日本よりもずっと原発依存度が高い。

(日本は1億2000万人で53基。依存度は30%。※3.11以前)


それでも、1999年と2005年に、まだ現役で若い原発を停止

場所は南西部にあるバーセベックで、デンマークの対岸。


デンマークには原発が無い。無い国にとって、対岸の原発は脅威に映ったらしく、強い要求があってその2基を優先して止めたのだ。


さて、あと9年で予定された2020年。

これからあと10基全てを無くせるのだろうか。


てっきりロードマップはあるのだろう、と思ったが、実は次の停止炉すら決まっていない。


そして去年、原発維持派によって「既存原発の置き換えなら建ててもよい」という法案が通ってしまったこともあった。
(日本のように、税金の補助は全くないので、現実的には建てられそうもないが)


また、スリーマイルやチェルノブイリのことが風化しており、原発は徐々に<必要>の方向に流れている。

フクシマのことがあっても、世論は思ったより盛り上がっていないようだ。


なぜ、スウェーデンでは、ドイツのような脱・原発のムードがないのだろうか。


その理由の1つは、日本と違って、原発エネルギーの利用効率が高いことがある。


原発というのは、エネルギーの30%しか発電できない。残り70%はお湯となって海に流してしまう。

ところが、スウェーデンはこのお湯を、地域温水暖房に使っているのだ。


もう一度、地図を見てもらうと、原発が首都ストックホルムや、第2都市ヨーテボリにとても近いことがわかる。
近いから、お湯の温度を下げずに配水することができて、地域暖房に使える。


(日本には、<原発は事故ったら危ないから、大都市の近くはダメ>という法律がある。だから東京や大阪には建てられない。絶対安全じゃないよ、と法律は知っていたのだ)


というわけで、エネルギーを上手に使えているために、それを置き換えるには、それだけ大きな代替エネルギーが必要となってしまう、というジレンマがある。


2つ目の理由は、スウェーデンよりも他の国を止めよう、という考えだ。
特に東欧にある原発のほうが古くてずっと危険だから、事故の可能性を下げるには、よりリスクの高いところから止めた方が合理的だ。


(日本から見たら、中国の原発がこれにあたりそうだ。中国にはまだ11基しかないが、今後10年で100基建てよう、という計画すらあった。 ※フクシマの影響で計画停止している)


最後の理由は、電力市場の国際化だ。

大陸でつながっているヨーロッパは、電気が国をまたいで売買され、供給されている。だから、電気を余分に作って他国に売り、外貨を稼ぐことができる。
スウェーデンにとって、電気は重要な輸出商品なのだ。


(将来、日本も送配発電が分離され、中国と繋がったら、あちらから格安な電力が供給されるかもしれない。)


ということで、以上3つの理由によって、スウェーデンでは具体的な原発撤退計画が固まっていないし、世論の盛り上がりも欠けているのだった。


エネルギー政策、特に原発のような大きな存在を変えていくのは、やはり容易ではないことが伺える。
また、31年も前に脱・原発を決めた国でさえ、予定通りあと9年で達成するのは難しそうだ、という厳しい現実も見えるのだった。


と、ここまで書くと、「スウェーデンでも脱・原発は無理なのか・・・」と思われるかもしれない。


でも、よくよく3つの理由を考えると、どれも日本には関係がない。


日本では原発のエネルギー利用効率は低くて、地域暖房のインフラはない。
韓国や中国の原発を先に止めよう、という議論もない。
電力市場は国内で閉じている。


スウェーデンからしたら、夢のような好条件だ。


しかも、この夏の実績として、原発なしでも年間電力ピークの猛暑を乗り越えられることがわかった。
さらに、今日の時点で、日本ではたったの11基しか稼働していない。(停止要請や定期点検などのため)


記事の最初に、エネルギー政策の原発4択を挙げたが、4つめの選択肢「すぐに脱却する」を、日本は選ぶことができる。


この選択肢は、単に「節電すればできるからやろう」ということ以上に、大きなメリットがある。


1つは、原発依存がゼロになったら、それがエネルギー供給の質が最低になる(最も化石燃料依存度が高い)から、あとは自然エネルギーが増えた分だけ全てプラスになること。
化石燃料原発から、一方的に自然エネルギーへのシフトが進む!


2つめは、世界に向けて強烈なメッセージを出せて、日本が自然エネルギーのリーダーになれること。
「脱・原発」を<実現した>世界初の国になれるから、世界に向けて脱・原発の最も説得力のある国にもなれる。
また、エネルギー消費も大きい国なので、自然エネルギー導入の主導権を握れる。



3つめ、これが一番大切なのだが、日本市民がこれ以上、原発におびえることなく暮らせるようになること。
原発が全国に点在するため、はっきり言ってどこに移住しても安心なところなどない。
(沖縄には原発はないが、すぐ隣の台湾にある。小笠原諸島もいいが、考えてみれば風下だ。)
全ての原発が停まれば、少なくとも爆発することはなくなる。
被ばくが心配な人は、西や北から食材を得たり、移住したりすれば安心して生きていける。


副作用として、さらにいいことがある。

それは、若い世代に市民と政治の力を実証でき、世の中は変えられるんだ、という希望を見せることができる。

これは僕はとても重要だと思っていて、子どもの頃からず〜〜〜っと不況の中で生きてきた若い世代は、すっかり冷めてしまっている。

だから、自分が参加することによって社会に影響を与えられることや、政治がいかに大切かということに、気が付くことができる。



すっかり長くなってしまったが、スウェーデンの事情を踏まえて、いかに今が大きなチャンスなのかを書いた。


「再稼働は認めて、段階的にいつかは脱・原発したい」なんて、やさしい認識でいると、いつのまにか依存体質に戻ってしまうかもしれない。


この千載一遇のチャンスを生かそう。


一人一人が、意思を示そう。


そして、政治によって舵を切らせよう。