北極線牧場で、再生可能エネルギーに出会う
ここは、北極線牧場。
その名の通り、ちょうどこのあたりを北極線が通っているからだ。(つまりここより北は北極圏)
牧場主のトーマスさんは、牛のふん尿を使ってバイオガスを得る<再生可能エネルギー牧場>に取り組んでいる。
「実は本業の乳牛が安定していなくてね。なにせ生き物のことだから予定通りにはいかないさ。
バイオガスはまだ計画段階だけど、準備ができたらすぐに投資するよ。
牛の糞尿は、いまは牧草地の肥料にするだけなんだ。
でもバイオガスをやれば、電力の自給や、地域に熱供給もできるようになるんだよ。
それに、バイオガスの処理を経ると窒素成分が増えるからね。肥料としても良質になるんだ。
ふん尿の匂いもなくなるから、従業員も住民も喜ぶよ。」
映画「ミツバチの羽音と地球の回転」でも紹介されたこの牧場。
投資が進んでいないことに、少し驚いた。ひょっとしてコストが高くて投資できないのだろうか?
「いや、投資は5年で回収できる見込みだよ。
全部で500万クローナ(約6,000万円)のインフラ投資さ。
どうやら、単純に本業の乳牛生産が理由らしい。
「本当は、バイオガスの使い道は車の燃料にするのが、環境にとっても一番いい。
でも、この牧場は小規模だから、そんなに生産できないし、インフラもないしね。
ウチの電力を賄えるだけでも、年間40万クローナ(約500万円)の節約になる。それだけでも十分費用対効果があるよ。」
ところで、(食肉加工をしている)屠さつ場でのバイオガスはどうなんでしょう?
「屠さつ場から出る廃棄物は、ふん尿より10倍もエネルギーが高いから効率はいいよ。
でも衛生的な処理が必要で、そのためのコストがかかる。
ある程度の規模があるところなら、できると思うよ。」
そういえばチェルノブイリ事故の時、ここにはどんな影響があったんですか?
「オーベルトーネオにはあまり放射性物質は降ってこなかったんだ。もっと南の方はひどかったね。
地域によっては、キノコなどの森での採集や、森で生きる鹿やトナカイの狩りが数年間禁止されたよ。
僕はいま、ロシアの核廃棄場のことを心配してる。
320km離れているんだけど、古くなった原子力潜水艦とか原発のゴミとかが集められているんだ。
それからフィンランドで新設される原発も気になるよ。100kmしか離れていないからね。
ここには森も水も風もあるから、原発なんていらないんだ。その努力を怠っているのさ。
例えば、森をきちんと管理すれば、スウェーデンもフィンランドも、今よりさらに30%もバイオマスのエネルギーを得られるはずなんだ。」
たくさんの質問に快く具体的に答えてくださったトーマスさん。ありがとうございました。
<再生可能エネルギー牧場>になる日が本当に楽しみです。