再稼動の狙いは、確かに経済を守ることだった

大飯原発が再稼動して、送電が始まっています。


これで節電の必要も減って一安心、というわけです。



さて。いろいろ言われている再稼動について、改めて考えてみたいと思います。


なぜ、再稼動が必要なのか?


あなたは、どう考えていますか?




よく目にする理由には、こんなものがあります。


1.電気が足りないから


これがかなり多くの人が挙げる理由ではないでしょうか。マスメディアでも一番取り上げられる点です。


「電気が足りない。停電する。生活もビジネスも困る。そのために再稼動は仕方ない」


生活やビジネスと、原発のリスクを比較するのは一人一人が考える問題です。

でも、そもそも電気は本当に足りないのか?


1年間で最も電気を使うのは、夏です。それも、日中の気温が一番高い時間帯がピークなので、そこさえ乗り切れば停電はしません。およそ午後1時〜4時の3時間だけ、しっかり対策すればよいのです。

ちなみに、この時間は家を空けているところが多いので、対策すべきは家庭ではなく事業者です。

電気の使用目的は照明とエアコンが多くを占めますから、節電タイプに切り替えるのは簡単です。また、エアコンは50分に5分だけ止めるというのをみんなでやれば、それだけで10%節電できますし、体感的には全く影響ありません。


なにより、「足りない」と主張している電力会社は、他の電力会社から融通してもらえる分を計算に入れませんでした。さらに、これまで原発の夜間発電で動かしていた揚水発電も入れていません。それを火力でやると、さらにコストがかかるからです。
揚水発電とは、夜の余った電力で水をダムに入れておき、昼に水を放出して発電する方法です。)


だから、実はほとんど節電なんてしなくても、電気は足りるのです。


よしんば節電に協力するとしても、それは日中の3時間だけでいいし、工夫によって十分対策することができます。



2.原発による雇用


経営者タイプはこれを挙げます。

原発事故のような社会的な大問題を引き起こした会社の雇用を心配するなんて、なんと親切なのでしょう。ぜひ自社の雇用もきっちり守って、社員を厚遇して欲しいものです。


というイヤミはさておき。


廃炉にするだけでも30年はかかるので、原発の雇用という点ではあり続けます。被ばくを余儀なくされる雇用が廃炉でも必要で、今後も立地自治体に押し付けるのは心苦しいですが、そういうモラルの問題と、雇用があるかどうかの問題は一旦別にします。


雇用は、廃炉にしても生まれます。


さらに言うなら、原発の代替電力のために、火力や自然エネルギーの発電施設が急速に建てられますから、そこで生まれる雇用も大きいでしょう。

そういう施設を、原発と同じ自治体に建てられないか、考える価値はありそうです。



3.立地自治体の財政


原発交付金によって、立地自治体は財政破綻から逃れています。この記事でも書かれていますが、3〜5割の収入を原発交付金が占めている。もしそれが止まったら、すぐに破綻してしまいます。


本来とっくに破綻するはずだった自治体が、この交付金によってまるでバブルのような状態なのです。無駄に豪華な設備が整っていて、その維持費のためにも交付金がないといけない。


これは完全に政治の話ですから、脱原発廃炉にするなら、しばらくは継続的に交付金をだすとか、10年後に半減するとか、対策をすれば解決できるだと思います。

自治体は、要は金が必要なのです。ただし、交付金は麻薬のようなものですから、依存から抜け出すためのリハビリ期間が必要だと思います。



おそらく上記の3つが、ほとんどの人が考える再稼動の理由だと思います。


あなたのご意見は、いかがですか?



それから、石原都知事を始め、一部の人が主張する理由もあります。


4.核兵器


原発があるからこそ、日本は核燃料を持つことが国際的に許されています。


さらに核燃料サイクルの計画があるからこそ、再処理を英・仏が引き受けてくれたし、プルトニウムも持てるのです。


でも、脱原発になると、その理由がなくなります。


核兵器の材料を持ち続ける正当な理由を失ってしまう。


日本が原発を導入した当初の政治的な狙いの一つは、間違いなく核兵器を将来的に持つことだったのです。


そして今でも、それを狙っている石原都知事のような人は、政権を担うような階層には相当数いると思います。


だから、原発は動かし続けなければならない、というわけです。



僕は、核兵器を持つことで国際的な地位を得ることや、相手国より優位に立ちたいだなんて、


いったい20世紀から何を学んだんだ、と思ってしまいます。


3.11の地震で、世界中の国々が支援をしてくれました。


あまり注目されませんでしたが、台湾をはじめアジア各国からの支援が、なぜあれほど得られたのか。


また、支援をもらった私たちは、それをどう感じたのか。


日本が世界で果たす役割は、核兵器を持つことではなく、もっと他にあると信じています。




もうひとつ加えたい理由があります。


7月5日の朝日新聞に非常に鋭い指摘が載っていたのです。それが5つ目の理由で、今回の記事のメインです。



5.銀行を救う


東京電力には、自己破産という選択肢もありました。でも、政府はそれを選ばせなかった、とその記事にはありました。


なぜか?


東京電力は、超・巨大企業です。その資産合計は15兆円にもなります。


世界のトヨタが30兆円ですから、関東圏にしか商圏をもたない東電の資産がその半分にもなるというのは、驚くべきことです。


さらに東電の最新の有価証券報告書を見ると、社債が3兆6,000億円、銀行からの長期借入金が3兆2,000億円。


さらに、震災後の緊急融資が1兆9,000億円と、追加融資が1兆700億円。



それから原発設備で7,200億円、核燃料で8,400億円の資産を計上しています。合わせて1兆5,000億円。


ちなみに、株もあります。でも、これはもう手遅れ。

例えば三井住友は東電の第3位株主。6年以上も同じ株数を保持してきましたが、その評価額は2007年の1,570億円から、いまはたったの53億円で、大損失を被りました。

(表を見るとわかるように、東京都は1,800億円も、大阪府は2,400億円も損しています。資産運用の観点では大失敗ですね。)


関西電力ですが、東電に次ぐ大電力会社です。規模は東電のおよそ半分と思ってください。


しかし関電は経営体質が悪いですから、原発を止めるとわずか3年で破産すると予想されています。


脱原発して廃炉になれば、資産に計上している原発と核燃料は即座に価値が無くなり、処理すべき負債になるからです。


そして東電や関電を破産させると、これらの負担は一気に債権者に降りかかります。


つまり銀行です。


メガバンクの純利益はおよそ5,000億円ですから、


兆単位で借り入れをしている東電と関電が倒れると、


銀行の経営危機につながるのです。


そうなるとインパクトは日本全体の経済に及びます。


貸し渋りや債権の取立てが起こりますから、景気は急速に悪くなるでしょう。



これこそが、政府が防ぎたかったことで、大飯原発を再稼動させ、他の原発もそれに続けさせることで、電力会社を破綻させない最大の本音です。
(政権を持つ者にとっては、「再稼動させないと景気が悪くなるぞ〜」という脅しに近いと思います)


穴の開いたバケツに水を注ぐような話としか思えませんが、


これは僕も納得している理由です。



再稼動の是非とは、市民の安全をとるのか、それとも銀行の危機=日本経済の悪化をとるのか、の選択なのです。



あなたは、どう考えられますか?




僕の考えは、


「やっぱり再稼動には反対」


です。


理由は明確です。


日本経済なんて、必ず再生させることができます。むしろ、より強くなるチャンス。


景気が悪くなっても、子どもが病気になったり、土地が汚染されて住めなくなったりするわけではありません。



でも、原発は違います。


原発事故は、明らかに避けることができるリスクです。


もしまた事故が起こったとき、


「景気の悪化を防ぐために仕方なかった」と本気で言えるのでしょうか。


それから。


逆の視点である「再稼動をすべきでない理由」も、よく考えたいところです。


福島原発の事故はまだ終わっていません。


高度に汚染された地域や、避難した人々への支援がどうなるかもわかりません。


処分先のない使用済み燃料、地震津波対策ができていない原発、まだ何も決まっていない原子力規制庁・・・。


再稼動の議論として、どうしても「再稼動する理由」に向かいがちですが、本当なら「再稼動すべきでない理由」にもっと比重を置くべきではないか、と感じています。



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余談ですが、再稼動する理由として環境問題を挙げる人って、ごく僅かですね。


原発はエコでCO2削減に貢献して、それを理由に原発が必要だったのではなかったのでしょうか。


自然エネルギーへのシフトが騒がれていますが、実質は火力へのシフトが大半を占めざるを得ないと思います。


特にここ数ヶ月で「シェールガス」が注目され始めました。米国ではすでにガスの価格が急激に下がっています。


日本の温室効果ガスの排出量は、確実に増えるでしょう。


皆さん、もう温暖化のことなんて忘れてしまったんでしょうか。



しかし、火力へのシフトを考えると、僕は憂鬱です。


いつまでたっても地面を掘り続けて、海や空気を汚染し続けるなんて、なんとも愚かしいというか、救いがない、という気分になってしまいます。